遅読翁ノエルのあれこれ創作書評録

後期高齢者に片足を突っ込みつつある老人です。ビンボーなため、本は買って読むことは滅多になく、もっぱら投稿サイトの作品やWeb出版の書物に目を通すことが多いです。作品は個人の好みと主観で★3以上と思われたものに限定して載せています。好きなジャンルはSF、時代小説、ミステリー、言語系エッセイ、人間学など。

マンション管理員オロオロ日記

いぶし銀のような人情物語にエールを贈りたい。
本書が出たのを書店で知って、あっという間に読み終えた。思えばいまから、ほぼ一年ほど前のことだが、コロナ禍のいま、再度読み返してみた。やはり読んでよかった。味わいが一度目とは違うのである。内容に深みが増していたのである。
一言でいえば、楽しかった。というより、おふたりの心のもちように感動させられた。このシリーズをその後も読み続けている自分だが、6作品中出色のデキではないかと思った。
ここに書かれてあるのは「日記」ではなく、ある管理員夫婦の人情ドラマであり、人生のやり直しストーリィだと改めて思った。他のレビュアーの書評を読んでいると、夫婦で住み込み管理員をして司法書士になったという猛者もいるようだが、その経済的メリットと勤務の合間の空き時間を駆使してのことらしい。
しかしながら、現実は厳しい。
業務以外の勉強にいそしむ管理員の姿を快く思わない住民もいる。ましてや、それが勤務時間内の行為であるなら、なおさら住民は業務に専心してほしいと願うことだろう。
帯のコピーに「鈍色のドラマ」とある。まさに正鵠を得たフレーズで、別所でも書いたが、この一言が本書の本質を言い当てているのではないだろうか。読者は、この本を手にした途端、ふたりの相克ドラマを垣間見ることになるであろう。
いずれにせよ、ホームレス寸前の生活から無事、生還を果たしたご夫婦にマンション住民の一人として限りないエールを贈るとともに本書の成功を寿ぎたい。自己実現のための勉学ではなく、住民のために、敢えて夜間での対応も已む無しとするおふたりの姿に「真の黒子」を見る思いがした。
管理員も労働者であり人の子であるとはいえ、住民のための管理業務に専念してこそ管理員といえるのではないだろうか。管理員という仕事は、別の職業に就くための腰掛ではないのだから……。